interview
2021.04.30
食事に合わせて自由な飲み方で楽しめる、日本酒。が、しかし、その歴史としきたりのハードルゆえか「デビューに尻込みしてしまって……」ってな、ビギナーの方も少なくないはず。
そんな、皆さんにぜひ試してもらいたい飲み方が、日本酒ロック!聞き馴染みのない飲み方かもしれませんが、氷を入れたグラスに日本酒を注いで飲む新たなスタイルは、日本酒ラバーの間で密かにブームになっているのです。
そんな日本酒ロックの魅力を伝える連載『日本酒ロックと私』の第二回は、「日本酒は、晴れの日のお酒だなと思う」と、語るライターのスズキナオさんをゲストにお迎えし、最高のアテ探し、そしてチェアリングのち日本酒ロック……と、彼の日常の中に日本酒ロックを取り入れてもらう試みに挑戦してまいりました。
※チェアリング:アウトドア用の椅子だけを持って街に出かけ、好きな場所でリラックスして過ごすという敷居の低いアウトドアアクティビティ
<話を聞いた人>
スズキナオ(すずきなお)
東京生まれ、大阪在住のライター。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンドブックス)。飲酒ユニット酒の穴の仲間である、パリッコさんとの共著に『"よむ"お酒』(イーストプレス)『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(エレキングブックス)などがある。テクノバンド「チミドロ」のリーダーとしての顔も。
普段通りですか……。では、まずはアテ探しをしましょう。日本酒を飲むなら、どんなアテがいいですかね。やっぱり魚かな。このあたりは、商店街が賑やかで、惣菜屋さんも豊富。うーん、悩むなあ。
あと、このへんって寿司屋さんが多いんです。あ、そうだ、すこし前に「寿司折で飲む」っていう試みに挑戦したんですが、いい店に巡り会えず。結局スーパーのお寿司で一杯やったんですが、それにしてもよかった。どうでしょう、今日は寿司折をアテに河原でチェアリングしてみるっていうのは。
両親が山形出身なので、親戚が集まる場でも日本酒を飲むことも多くて、自然と好きになりました。
実は、飲んだことないんですよね。日本酒ロックってとても単純じゃないですか、日本酒をたっぷりの氷の中に入れて飲むだけなのに。なんで、やったことなかったんだろうなあ。香り高いフルーティーな日本酒が合うんじゃないですかね。家で試そうかなとも思ったのですが、あえて今日を初めての日本酒ロックにしようって思っています。
これは、いい寿司折だ。やりますね。酔っ払った父親が持って帰る土産感がしっかりとあって。包装紙にありとあらゆる魚の名前が書かれているのもいいですね。よし、ここの寿司折にしましょう。
いやあ、小さな夢が叶いましたよ。最高のアテを手に入れたことですし、近くの川まで歩きましょうか。特段派手な場所ではないのですが、すごく落ち着く場所で普段からよく訪れるところなんです。
30歳くらいの頃ですかね、もともと書くことが好きだったので、会社員をしながら副業でライターの仕事を始めたんです。とはいえ、月に一本記事を書く程度。で、家の都合で2014年に大阪へ移住。当初は友人もいなくて、仕事もないからボーッと過ごす時間が本当に多かったです。今も適度にボーッと過ごしていますけどね。しばらくして、デイリーポータルZ等のWEBサイトで書かせてもらえるようになって、ジワジワと書き仕事が増えた感じです。
おっしゃる通りですね。もともと、飲みに出るのも好きでしたし、酒場も好きでした。ライターのパリッコさんと酒の穴というユニットを組んでいるのですが、自分がまだライターとして活動してない頃から、二人でいい酒場を探したりもしていて。
僕が個人的に思う「いい酒場」っていうのは、別に上等な酒場という意味ではなくて。メニューがいい感じに年季が入っていたり、常連さんが毎日日本酒を二合までと決めて飲んでいたり……言うなれば、シチュエーションがいい酒場です。みてください、もう川が見えてきましたよ。あと少しで、今日の酒場に到着です。
そうなんですよ。特別感があるわけではないんですが、いいんです。ただ、ここで立って飲むだけでも素晴らしいんですが、椅子に座ると景色の見え方が変わるのでそれもまたいい。せっかくここまできたので、本当はワイワイ楽しみたいところですが、こういう時勢です。しっかりソーシャルディスタンスを保って、周りの方にも迷惑をかけないようにやりましょう。
最初になんでやったことなかったんだろうってお伝えしましたが、日本酒って僕の中では、晴れの日のお酒なんですよね。だから、もったいない気がして。今日は、コンビニで氷入りカップを調達してきました。これに注いで飲みますね。
いやー、美味しいですね、コレ。冷やすことによって、飲みやすさが増しているというか。普段のチェアリングでは、缶チューハイを飲むことがほとんどなんですが、氷の入ったグラスに日本酒。これは、すごく贅沢だ。
「松竹梅 かおりカン 酵母877」はキレが良いのに香りも良くて理想的な味わいでした。それでいて、日本酒らしさが損なわれているわけではないし、とてもいい日本酒だなと。
そう、バナナのような香りがあって。正直なところ、缶の日本酒なので、上等な味を期待してなかったんです。でも、これは本当に上等な味がしますね。僕が思ういい日本酒です。
たしかに、ほんのりシュワっとしている。これもまた、飲みやすさの後押しに一役買っている要素ですね。いやー、それにしてもいろんなお酒で試してみたくなりますね、日本酒ロック。思った以上に自然な飲み口だったので、オールラウンドに合わせられそう。
あ!日本酒ロックに気を取られていましたが、寿司折を買ったんだった。いやー、なんて贅沢な昼下がりなんだろう。チェアリングは僕にとって日常と地続きにある楽しみなんですが、今日のはその少し先にある感じがしています。
そもそも、チェアリングはパリッコさんが監修する『酒場人』という雑誌(現在は休刊中)で、「ページが余っているからなにかやらない?」と、誘って貰ったことを機に生まれた企画なんですよ。今ではチェアリングの名付け親みたいに言ってもらうことも多いんですが、もともと、椅子に座って飲むっていうのは普通なことですし、もちろん僕らが初めてやったことではないと思うんですね。
それこそ、キャンプとか野外フェスとかでやるじゃないですか。マイチェアでお酒を飲むという行為は。でも、それって割と準備が必要ですよね。休みを取って計画を立てて。それに、たくさんのお金もかかる。会社員だった頃、こうやって休暇で大きくリフレッシュするのが当たり前な反面、僕は毎日少しづつリフレッシュするのが好きなんだよなって思っていたんですね。
だから、スーパーで気になる惣菜を買って、それを食べながらプシュッとやる。それで十分なんですよね。1000円で味わえるリフレッシュです。それが、チェアリング。酒場で美味しいお酒を飲むのも贅沢な時間ですが、寿司折と日本酒ロックでチェアリングは、その間にある贅沢だなって。
日本酒と寿司は贅沢な組み合わせですが、スーパーやコンビニで「松竹梅 かおりカン 酵母877」と氷入りグラス、それに寿司パックをセットで売ったらすごく良さそうだなあ。それこそ1000円くらいで売れますよね。なんだったら、イスもセットで売っていたら、いいなあ。
もしそんなことが実現したらぜひ!今日はいいチェアリングができたなあ。ちょっと冷えますし、このへんでシメましょうか。こうして、いつでもシメられるのもまたチェアリングのいいところなんですよね。
いかがでしたか?「日常と贅沢の間にある愉しみ」と、寿司折×日本酒ロック×チェアリングの組み合わせに太鼓判をくれた、ライターのスズキナオさん。もしかすると、日本酒ロックブームを加速させるには、日常と地続きにある体験が必要なのかもしれません。
さて『日本酒ロックと私』は次回以降も、日本酒ラバーなあの人や、日本酒を生業にするカリスマに至るまで、剛柔自在な面々が登場予定です!
それでは、第三回『日本酒ロックと私』乞う、ご期待!
取材・文・写真:納谷ロマン