おいしさづくりの基礎知識こうじに関する基礎知識

こうじを利用した食品や加工品

清酒、本みりん、みそ、しょうゆなど、料理に使われる主な調味料は、いずれも「こうじ」の力を利用して製造されています。
こうじは、漬物や水産加工品などにも利用され、私たちの食生活にはなくてはならないものになっています。

名称 説明
べったら漬け 大根のこうじ漬けの一種。砂糖、米、こうじで漬ける。東京の名産品
きゅうりの三五八漬け きゅうりを塩、こうじ、米で漬けたもの。福島や山形、秋田県の郷土料理
ぶりのかぶら寿司 塩漬けしたかぶにぶり、にんじん、こんぶなどを挟み、こうじとともに漬けたもの。石川県などで有名
さけと大根のはさみ漬け 塩漬けしたさけと大根を使い、さけを大根で挟んで、こうじで漬けたもの。北海道で有名
するめのこうじ漬け するめをせん切りにし、こうじ、さけ、しょうゆなどと混ぜ合わせたもの。鳥取県の郷土料理

こうじと他の食品原料を配合したこうじ加工品も存在します。中でも、塩こうじが近年脚光を浴びてきました。

  • 塩こうじ こうじ、水、塩を混ぜて熟成させたもの
  • しょうゆこうじ こうじ、しょうゆを混ぜて熟成させたもの
  • 甘こうじ(甘酒) こうじ、米、水を混ぜて熟成させたもの

これらは、こうじの持つさまざまな性質や能力を活かして作られ、古くから愛されてきたものです。
では、こうじとはいったいどのようなものなのか、その基礎知識を紹介します。

こうじとは

図

米、麦、大豆などの穀物にこうじ菌を繁殖させたものです。

主なこうじ菌の種類と特徴

黄こうじ菌 清酒、本みりん、みそ、しょうゆなどの製造に使用される。
胞子の色が黄色~黄緑色。
清酒こうじ用:Asp.oryzae…でんぷん分解力が強い。クエン酸生成しない。
しょうゆこうじ用:Asp.sojae…たんぱく質分解力が強い。
黒こうじ菌 焼酎、泡盛製造に使用される(泡盛製造には不可欠)。
胞子の色が黒褐色。
クエン酸高生産による腐造防止効果が大きい。 Asp.awamori Asp.saitoi Asp.usami
白こうじ菌 黒こうじ菌の突然変異株で焼酎製造に使用される。
胞子の色が白色 。
形態や性質は黒こうじ菌に類似している。Asp.kawachii
紅こうじ菌 中国、台湾の紅酒、新潟の「赤い酒」の製造に使用される。
紅色色素を生産。 
沖縄の醗酵食品「豆腐よう」に使用する。Monascus

中国では、クモノスカビ(Rhizopus属)やケカビ(Mucor属)が、紹興酒などの原料である「麦こうじ」に比較的多く利用されていますが、日本の米こうじとは、かなり違いがあります。

こうじ菌(コウジカビ)の役割

こうじ菌は、多種類の酵素を生産する 「酵素の宝庫」です。

  • ①でんぷんやたんぱく質などを分解する酵素を生成します。
     でんぷんはブドウ糖に、たんぱく質はアミノ酸に分解します。
  • ②酵素で分解生成されたさまざまな成分が、香りや味を出します。
  • ③酵母や乳酸菌に必要な栄養源(ビタミンなど)を供給する働きもあります。

こうじ菌が酵素を作る理由

こうじ菌は、でんぷんやたんぱく質をそのままの状態では吸収して、利用することができません。
そのため、酵素を体外に分泌して、でんぷんはブドウ糖に、たんぱく質はアミノ酸に分解して吸収できるようにします。
なお、こうじ菌は他の微生物より酵素生産能力が高く、この特長を生かして、多くの食品に利用されています。

こうじ菌 酵素
◇でんぷんを直接吸収(利用)できない
◇酵素を体外に分泌し、でんぷんなどを分解する
◇体内での糖の利用方法は酵母と類似している
◇酵素生産能力が高い
◇生物が生産する道具
◇さまざまな機能を持つ酵素が存在
◇酵素だけ(体外)でも機能を発揮

日本の醸造食品は、こうじ菌が分泌生産する酵素を醗酵醸造工程に利用したものです。

酵素とは

酵素の特性と利用方法

こうじ菌が作り出す酵素とは、どのようなものなのでしょうか?
生物の生命活動は化学反応の集積で、その化学反応の主役が「酵素」と呼ばれている生体触媒です。その種類は約2,400種といわれています。
主な性質は下に挙げている4点があります。

  • ①作用するための最適な温度、pHの範囲がある
  • ②それぞれの反応に対応したそれぞれの酵素がある
  • ③酵素自体は反応の前後で変化しないので活性は持続
  • ④たんぱく質なので熱で変性し活性を失う

現在ではさまざまな酵素が工業的に生産され、産業分野や家庭内でも利用されています。
※酵素剤を食品に使用する場合、食品添加物になります。

酵素の利用例
利用例 利用されている酵素 目的と効果
醸造用酵素 ・でんぷん分解酵素
・たんぱく質分解酵素
原料の糖化促進
アミノ酸生成促進(本みりん)
液糖の製造 ・でんぷん分解酵素 コーンスターチから液糖(果糖・ブドウ糖)の製造
洗濯用洗剤 ・たんぱく質分解酵素
・脂肪分解酵素
汚れを分解し、洗いやすくする
医薬用
酵素製剤
・消化酵素剤
・消炎酵素剤
体内の機能補助

醸造に関わる酵素

酵素にはさまざまな種類があることについて説明しましたが、醸造に関与する酵素の代表的な種類と特徴についてまとめます。

アミラーゼ群

アミラーゼ群は、でんぷんを加水分解する酵素の総称です。

α-アミラーゼ (液化酵素) でんぷんの液化に働きます。 でんぷん中のα-1,4結合をランダムな位置で加水分解し(エンド型)、最終的にはマルトース(麦芽糖)にまで分解します。α-1,6結合は分解できません。
β-アミラーゼ マルトース(麦芽糖)を生成します。 でんぷん中のα-1,4結合を非還元末端側から麦芽糖単位で加水分解します(エキソ型)。α-1,6結合は分解できません。 こうじ菌は生産しません。
グルコアミラーゼ (糖化酵素) グルコース(ブドウ糖)の生成に働きます。 でんぷんを非還元末端側からブドウ糖単位で加水分解します(エキソ型)。 α-1,4結合、α-1,6結合を共に加水分解することができますが、比較的分子量の小さいでんぷんを基質とすることができません。
α-グルコシダーゼ グルコース(ブドウ糖)を生成します。 麦芽糖をブドウ糖に加水分解することができます。
プロテアーゼ群

プロテアーゼ群は、たんぱく質を加水分解する酵素の総称です。

プロティナーゼ たんぱく質を可溶化し、ペプチドを生成します。
ペプチダーゼ 遊離アミノ酸を生成します(エンド型とエキソ型があります)。
リパーゼ群

リパーゼ群は、脂質を構成するエステル結合を加水分解し、脂肪酸を遊離させる 酵素の総称です。

その他の酵素

これまでに述べた酵素以外にもさまざまな酵素が醸造には関わります。

ペクチナーゼ 組織(繊維質やペクチンなど)を分解します。
セルラーゼ 同上
ヘミセルラーゼ 同上
チロシナーゼ 酸化酵素。こうじや酒粕の褐変に関与します。
 
  • 例:清酒製造における各種酵素の役割 図

こうじが作るその他の成分

ここまで、こうじ菌が作る酵素について説明してきましたが、ここではこうじ菌が作るその他の成分について紹介します。

米こうじは、さまざまな栄養成分を作り、酵母や乳酸菌に必要な栄養を供給します。
モリブテン、ビオチン、ビタミンB1、B2、B6、葉酸、パントテン酸、ナイアシンなど、特にビタミンB群が豊富に含まれています。

【ビタミン】 米こうじ200g (1合)当たり 1食当たり 目安
ビタミンE 0.4㎎ 2.2㎎
ビタミンB1 0.22㎎ 0.32㎎
ビタミンB2 0.26㎎ 0.36㎎
ナイアシン 3㎎ 3.48㎎NE
ビタミンB6 0.22㎎ 0.35㎎
葉酸 142μg 80μg
パントテン酸 0.84㎎ 1.5㎎
ビオチン 8.4μg 17µg
食物繊維 2.8g 5.7g~
【ミネラル】 米こうじ200g (1合)当たり 1食当たり 目安
ナトリウム 6㎎ ~1000㎎
カリウム 122㎎ 833㎎
カルシウム 10㎎ 221㎎
マグネシウム 32㎎ 91.8㎎
リン 166㎎ 381㎎
0.6㎎ 3.49㎎
亜鉛 1.8㎎ 3㎎
0.32㎎ 0.24㎎
マンガン 1.48㎎ 1.17㎎
セレン 4μg 8.3μg
モリブテン 96μg 6.7μg

こうした多くの栄養成分を含むことで、こうじは日本では古くから天然の調味料として使われ、また現在でも整腸作用や美肌効果など、さまざまな健康イメージを持つ食材として注目されています。

こうじの調味料としての利用

これまで、こうじの基本的な特徴や、こうじが作る酵素、成分などについて説明してきました。
こうじの持つこれらの機能や特徴から、現代では醸造だけでなく、こうじそのものが調味料として用いられています(塩こうじが代表例)。

こうじ由来の酵素を利用する場合と、酵素以外の成分を利用する場合の調理効果を以下にまとめました。

酵素作用の利用

酵素 食品素材(基質) 調理効果
でんぷん分解酵素
(アミラーゼなど)
でんぷん
(米飯、パンなど)
・米飯食感改善
・老化防止(抑制)
たんぱく質分解酵素
(プロテアーゼなど)
たんぱく質 (肉、魚介類、豆類など) ・軟化効果
・歩留向上
脂質分解酵素 脂質 ・香りの付与
その他酵素 繊維質 ・パンの膨らみ向上
・豆類や野菜の軟化

酵素以外の成分の利用

こうじを自己消化させると、呈味成分、香気成分をはじめ、さまざまな調理効果を発揮する成分を生成します。

調理効果
風味付与 甘味、コク、うまみの付与、こうじの香り、甘酒様香りの付与
その他の機能 マスキング、食感改良など

【参考文献】
「麹学」,(財)日本醸造協会.
「日本食品標準成分表2015年版」,文部科学省.
岩野君夫,「清酒醸造と酵素」,『日本醸造協会誌』第74巻第4号,(財)日本醸造協会.