おいしさづくりの基礎知識食感に関する基礎知識

食品の食感(テクスチャ―)

食品の食感(テクスチャー)はおいしさに大きな影響を及ぼす要素です。
例えば、やわらかい肉と硬い肉、どちらがよりおいしく食べられるかというと、もちろん、やわらかくて適度な噛みごたえのある肉の方がおいしく食べられるでしょう。
日本人は食感を非常に重視していると考えられています。
なぜならば、日本語にはテクスチャーを表す言葉が外国語と比べて非常に多く、400語以上の言葉があるとされています。
このようにおいしさの重要な要素である食感について、魚肉や畜肉、でんぷん食品を例に挙げて説明します。

食感について:魚肉・畜肉

まず、魚肉や畜肉の食感についてです。
これらの食品は加熱調理すると、肉質が硬くなったり、パサパサの食感になってしまいますが、どうしてこのような変化が生じるのでしょうか?

たんぱく質について

魚肉、畜肉は主に3種のたんぱく質から構成されています。
①筋原線維たんぱく質、②筋形質たんぱく質、③結合組織を構成するたんぱく質、の3つです。
これらはそれぞれ異なった種類のたんぱく質からなり、特徴が異なります。
それぞれの特徴を表にまとめました。

筋肉たんぱく質 具体的なたんぱく質 特徴
筋原線維たんぱく質 アクチン、ミオシン、アクトミオシン 繊維状で筋肉の収縮に関与
加熱することで収縮し、硬くなる
筋形質たんぱく質 ミオグロビン、酵素など 解糖酵素を含む
ミオグロビンは魚肉の血合い肉
結合組織たんぱく質 コラーゲン 加熱によって凝固
加熱を続けるとゼラチン化し ほぐれやすくなる

表にまとめたように、肉類が硬くなるのは、加熱によって筋原線維たんぱく質とコラーゲンが変質し、凝固、収縮してしまうことが原因です。
ただし、コラーゲンは加熱を続けるとゼラチン化し、強固だった結合組織が弱まり、筋繊維はほぐれやすくなります。肉の煮込み料理を想像していただくとわかるかと思います。
肉を加熱し、たんぱく質が収縮、凝固すると、たんぱく質に保持されていた水分が保持されずに分離してしまい、肉汁として流出してしまいます。
そのため、食感としては硬く、パサパサしたものになります。

肉類が硬くなるのを防ぐには

肉類が硬くなる原理について分かりましたが、どうすれば肉類が硬くなるのを防ぐことができるのでしょうか?
主に以下の4つの方法があります。

図

①砂糖による軟化

砂糖はその分子内に多数の反応性に富むヒドロキシ基 (-OH)を持ちます。そのため、肉のたんぱく質の極性基と相互作用します。これにより、加熱によって肉のたんぱく質が変性し、凝固するのを遅らせることができると考えられています。
例えば、すき焼きの肉に砂糖をかけるとやわらかくなると言われています。

②食塩による軟化

食塩を加えると、筋原線維たんぱく質が可溶化され、筋繊維がほぐれ、肉の保水性がアップします。この結果、肉はやわらかく仕上がります。

③pH変化による軟化

肉の保水性は、筋たんぱく質の等電点に相当するpH5付近で最小を示し、それより酸性側でもアルカリ性側でも大きくなります。
例えば、重曹を使うと肉がやわらかくなるとされていますが、これは肉のpHをアルカリ性側に変化させています。
また、酢やワインに浸すマリネ処理は、肉のpHを酸性側に変化させることで、肉をやわらかく仕上げています。

図

ちなみに筋繊維をほぐすのは、②は食塩由来の塩素イオン(Cl⁻)同士の、③は酸またはアルカリ由来のプラスイオンまたはマイナスイオン同士の静電気的な反発によるものです

歩留まりの向上

②、③で見てきた保水力の向上は、原料重量の減少が小さくなる、すなわち歩留まりの向上につながります。
食品加工の現場では非常に重要な歩留まりですが、どのようにすれば歩留まりを向上させることができるのでしょうか?
歩留まりが下がってしまう大きな理由は、材料に含まれる水分などが調理過程で流出してしまうことです。
そのため、歩留まりを向上させるためには、
①材料の保水性を上げる
②材料からの水分などの流出を防ぐ
ことが考えられます。
保水性は先ほど説明したような処理で向上できます。
材料を保水力の高いでんぷんなどでコーティングすると水分などの流出を防ぐことができます。

④酵素による軟化

酵素の一種であるプロテアーゼは、たんぱく質を分解する働きがあります。プロテアーゼによって筋原線維たんぱく質や結合組織のコラーゲンが分解され、筋繊維が分断された結果、肉がやわらかくなります。
プロテアーゼにはさまざまな種類のものがあり、その由来もさまざまです。
精製された酵素剤を家庭で利用することは困難ですが、食品に含まれるプロテアーゼを利用して肉をやわらかくすることができます。
キウイやしょうが、パパイヤ、パイナップルなどには肉をやわらかくする効果があることは有名ですが、これらは全てプロテアーゼの働きによるものです。
こうじに含まれるプロテアーゼも同様の働きをします。

図

ちなみに先ほど紹介したpH変化による軟化では、pHを酸性側にすると、保水性の向上だけでなく、肉に含まれる酸性プロテアーゼが活性化し、肉をやわからくする効果ももたらします。

食感について:でんぷん食品

普段の食事の主食となるごはんやパン、麺類などは、出来立てが一番おいしく、時間が経つとおいしくなくなってしまいます。
その主な原因は、時間が経つにつれてこれらの食品の食感が、硬く、ボソボソしたものになってしまうことでしょう。
なぜ、このような食感の変化が生まれるのでしょうか?

でんぷんの糊化と老化

まず初めに、ごはんやパン、麺類は、主成分がでんぷんでできています。
でんぷんには、生でんぷん(β-でんぷん)と糊化でんぷん(α-でんぷん)という、2つの状態があります。

図 生でんぷんは、その名の通り生の状態のでんぷんで、すなわち炊いたり、ゆでたりする前の状態のでんぷんです。
分子構造が非常に密になっていて、分子が整列して並んでいる状態です。これは消化することがとても難しい状態です。

図生でんぷんに、水を加えて加熱すると、密だった分子の間に水が入りこんで分子構造を緩くし、ほぐれた構造になります。
この変化を糊化(α化)といい、この状態のでんぷんを糊化でんぷんと言います。

糊化でんぷんは、その後放置すると分子間から水が遊離し、再び生でんぷんのように分子が密になることで硬くなり、結果としてボソボソとした食感になってしまいます。
こうした変化のことをでんぷんの老化といい、時間経過によりでんぷん食品の食感が悪くなってしまう原因です。

図

でんぷんの老化を防ぐためには

でんぷんの老化は、糊化でんぷんを高温のまま乾燥するか、急速に冷凍することにより防止することができます。
これらの方法は、即席麺や冷凍ごはん、その他加工食品に利用されています。

また、でんぷん食品のさまざまな老化防止方法が研究されていますが、現在利用されている主な方法としては、
①糖類の添加
②乳化剤の添加
③酵素の添加
が挙げられます。

①の糖類の添加は、糖類の親水性によって、
②の乳化剤の添加は、乳化剤がでんぷんを構成する分子と複合体を作り、再結晶化を防ぐことによって、
③の酵素の添加は、でんぷんを分解する酵素(アミラーゼ)によってでんぷん分子を部分的に分解し、再結晶化を防ぎ、かつ生成する糖が水を抱えこむことによって、 それぞれ老化を防止しています。

【参考文献】
早川文代,「テクスチャー(食感)を表す多彩な日本語」,『豆類時報 (52), 42-46, 2008-09 』, (財団法人) 日本豆類基金協会.
沖谷 明紘 編,『シリーズ《食品の化学》 肉の科学 』, 朝倉書店.
鴻巣 章二 監修 阿部 宏喜・福家 眞也 編,『シリーズ《食品の化学》 魚の科学』, 朝倉書店.
日本食品添加物協会九州支部,『食品添加物基礎教育研修会のテキスト』, 日本食品添加物協会.