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2018.03.27

天然記念物イタセンパラの泳ぐ姿が見られる淀川へ

淀川水系イタセンパラ保全市民ネットワーク

イタセンパラが教えてくれる河川の環境

日本固有種としてかつては数多く生息していたイタセンパラ。
そのイタセンパラが、高度経済成長期の頃から環境の悪化に伴い数が徐々に減ってきたといいます。イタセンパラが生息しているのは琵琶湖・淀川水系(琵琶湖は除く)、濃尾平野、富山平野のわずか3箇所のみ。淀川に生息しているイタセンパラは徐々にその数が減り、絶滅するかもしれないという危機に陥っているのです。

大阪にはこのイタセンパラを再び淀川に戻そうと、川の環境改善という側面から色々な活動を実施している市民団体と大学・研究機関、行政が連携したネットワークがあります。今回は日々どのような活動をしているのか、イタセンパラの今後は一体どうなるのかについて、淀川水系イタセンパラ保全市民ネットワーク(イタセンネット)の代表であり、大阪工業大学特任教授として、河川工学の立場から淀川の生き物保全にも取り組んでいる綾史郎さんにお話しを伺いました。

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まずは、イタセンパラという魚をご紹介します!

「イタセンパラ」ってどんな魚??

image繁殖期のイタセンパラ(オス)

イタセンパラは、コイ科タナゴ亜科に属する日本固有の淡水魚です。 イタセンネットの拠点がある大阪府内では、川の流れが少ない淀川のワンド(湾処)にしか生息していないそうです。

イタセンパラという一風変わった名前のですが(※漢字で書くと「板鮮腹」)、平たい体型と産卵期のきれいな赤紫色の婚姻色に由来し、その姿がとても美しいことからきています。イタセンパラは淀川の生態系を象徴し、その美しさから、『淀川のシンボルフィッシュ』とも呼ばれているのだとか。

実はユニークな生態を持つイタセンパラ

イタセンパラの属するタナゴの仲間は、生きた二枚貝に産卵します。貝の出水管にメスが産卵管を差し込んで産卵、そこにオスがすかさず貝の入水管付近で放精し、貝の体内で卵が受精します。貝はイタセンパラに養分を取られることはありません。イタセンパラの目的はただ一つ、自分が産み付けた卵や仔魚を貝の硬い殻に守ってもらい敵に襲われなくするため、なのだそうです。

  • image産卵管を貝の出水官に差し込んで卵を産むメス
  • image貝の中に卵が産みこまれた画像
  • imageイタセンパラが卵を産むイシガイの画像
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貝の中が安全って、イタセンパラはどうやって知ったのだろう。不思議! 貝は卵を産み付けられて迷惑ではないのかな?

環境に敏感なイタセンパラの姿が消えた過去

淀川のシンボルフィッシュとして親しまれてきたイタセンパラは、淀川の大規模改修計画などの際に川の環境が変わり、その数が激減しました。1974年には魚類初の国の天然記念物に指定され、その後1995年には、環境省レッドリストの「最も絶滅に瀕している魚」として分類されてしまいました。そして2006年には、淀川ではイタセンパラの生息がとうとう確認できなくなってしまったのです。

絶滅危機を迎えたイタセンパラを取り巻く環境

「イタセンパラの姿が消えた直接的原因としては外来種のブラックバスやブルーギルが増えたことが挙げられます。私たちの前の世代から淀川の環境保全は叫ばれていましたが、淀川のシンボルフィッシュであるイタセンパラが絶滅するかもしれないという危機に直面して、ようやく『もっと本腰を入れて取り組まないといけない』という思いが強くなってきました」。

  • image北城ワンドの画像
  • imageワンドを説明している図

生物多様性を守り、淀川を昔の姿に戻すためのネットワーク組織とその活動

イタセンパラの姿が見られなくなって5年後。2011年8月にイタセンパラの保全と淀川の生物多様性の回復を目指して発足したのが、イタセンネットです。市民団体やNPO、企業、大学、行政など、すでにイタセンパラの保全に取り組んだり、淀川の環境保全活動を行ったりしていたところとも連携し、現在は42もの団体がイタセンネットに加入しています。
保全を目指す淀川は、滋賀や京都、奈良、大阪などにも広がる大河川。「保全活動をしたい場所は広範囲にわたりますが、イタセンネットではイタセンパラが多く見られた城北ワンド群を中心に、イタセンパラを食べてしまう外来魚駆除をはじめ、外来植生の防除、河辺のクリーンキャンペーン、保全活動の大切さを伝えていく水辺リーダーの育成など、さまざまな活動に取り組んでいます」。

  • imageシンポジウムの画像
  • image水辺リーダー養成講座の画像

誰でも参加可能! 地道な活動で美しい河川に

さまざまな活動の中でも特に力を入れているのが外来魚駆除活動で、城北ワンドで月2回、庭窪ワンドで月1回の定期駆除活動と城北ワンドで年2回の外来魚駆除釣り大会をしています。活動は地元の皆さんをはじめ、地域全体で取り組んでいくことが大切だと考えています。そのため、大勢の人に楽しみながら活動に参加してもらえるように努力しています。

image地引網を引いている画像

例えば、4月〜11月まで行っている定例駆除活動は、毎回、ネットワークに加入する団体スタッフや市民など。20名くらいから、多いときでは80名もの人が参加しています。地曳網や籠モンドリなど、なかなか体験できない道具を使って外来魚を捕獲・駆除しています。5月と10月の年2回開催している外来魚駆除釣り大会は事前申し込みは不要。当日は誰でも気軽に参加していただけます。毎回300~400人の一般市民の方々が参加して下さり、魚釣りを楽しみながら外来魚駆除していただいています。活動当初はブルーギルが入れ食い状態でした。参加された方には存分に楽しんでもらえたと思います。
こうした活動は、地曳網を体験できる、釣りができるといった楽しみがあるだけではなく、駆除できた魚が一目で分かり、活動の成果を実感してもらいやすいという利点もあります。だからこそ、今まで大勢の方に興味を持ってもらえ、参加してもらえたのではないでしょうか。」
このような駆除を続けてきた結果、2015年には最悪の事態を脱し、1993年から2004年頃の魚種数、外来魚率に戻りました。
「今は釣り大会をしてもあまり外来魚が釣れなくて、むしろ申し訳ないくらいです(笑)」。

  • image籠もんどりを持っている子供の画像
  • image釣り大会の様子の写真
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「地域の人たちと」「楽しみながら」というキーワードが入った活動だからこそ、たくさんの方々が興味を持って、集まってきてくれるのでしょうね。参加した人たちも自分が楽しく行ったことが、環境を助けることにつながるならうれしいですね!

また、イタセンパラを食べてしまう外来魚のほかに、本来淀川には生えていないはずの水草も厄介ものでした。これらが増えすぎると、ほかの水生動植物の生存に悪影響を与えてしまうこともあります。外来魚と合わせて増殖した水生植物の駆除も行い、月2回の活動では間に合わず、臨時に行うことも多いです。

自然繁殖を目指して、イタセンパラを放流

淀川を管理する近畿地方整備局淀川河川事務所とイタセンパラをはじめとする淀川の魚類の保護・保全を行ってきた大阪府立環境農林水産総合研究所水生生物センターは2006年にイタセンパラが確認できなくなって以降、これまでに2009年と2011年に非公開で2度イタセンパラの放流を行っています。非公開にしたのは密漁防止のためです。
そして公開放流は、2013年10月に実現しました。その際、城北ワンドには500尾の成魚を放流したのですが、翌年の春には自然繁殖した次世代の稚魚が750尾ほど確認できたそうです。
その後、現在までイタセンパラは、城北ワンドで順調に大きくなり、毎年繁殖を繰り返していることが分かりました。

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イタセンパラが自然繁殖するまでの長い道のりを思うと、これは非常にうれしい成果ですね。
  • imageイタセンパラ放流の様子
  • image子供が水槽のイタセンパラをのぞいている
  • imageイタセンパラの稚魚
  • image順調に成長する第二世代のイタセンパラ

イタセンパラがいること、それが環境保全継続のモチベーション

「私たちが取り組んでいる保全活動の成果は、すぐに目に見えて効果が分かるのものではありません。ですが、稚魚を放流できるところまで環境が整ったのは、これまでの外来魚対策の活動があったからこそ。とはいえ、成果が出てきたからといって活動をやめてしまうと、せっかく減ってきた外来魚が増えかねません。
この活動は外来種が住みにくい環境になるまで、一生やりつづけないといけないんです。でも、イタセンパラの稚魚が毎年確認できたことは、イタセンパラ以外の希少種も繁殖できる環境になっているという明確な指針にもなります。活動の根底にあるのは、豊かな生物多様性を擁してきた淀川を昔の姿に戻したいという想いです。淀川にイタセンパラが存在していることが、淀川生態系再生のシンボルとなり、保全活動を続けていく上でのモチベーションになっているように思います。これからも市民活動として今の活動をもっと広げていき、とにかく続けていくことが大切だと考えています」

今、綾さんは再びイタセンパラを放流したいと考えています。ですが繁殖可能な環境が整わないことには、放流は難しいという現状もあります。「現在、イタセンパラは城北ワンドの一部にしかいませんが、徐々に河川の環境を整えていき、イタセンパラの生息地を増やしていくのが当面の目標です。これからもイタセンパラの生息地拡大を念頭に、長い目で活動を続けていきたいと思います」。

これまで多くの人が綾さんたちイタセンネットとともに、淀川の環境保全活動に参加してきました。活動に参加する人が増えれば、それだけ淀川の環境を意識する人が増えることになります。この先、少しでも多くの人がこのイタセンネットの活動に興味を持ち関わってくれれば、それがひいては淀川の環境改善、イタセンパラの生息地拡大へとつながっていくはずです。「活動を絶やさないで長く続けていくこと」、これこそが、時間がかかるようでいて一番の近道なのかもしれません。

実はイタセンネットには、会費も、毎回、活動に参加しないといけない義務もありません。
「そのときにできる人が参加するというゆるい活動団体ではありますが、大勢の人がゆるく関わってくれているからこそ、活動がここまで続いてきたのかもしれません」。そんな綾さんの言葉に、多くの方が参加し、長く活動を続けていくためのヒントがあるように感じました。

プロフィール

綾 史郎さん

1949年生まれ。岡山県倉敷市出身。1974年、京都大学工学部土木工学科の修士課程を終了。1991年に工学博士となる。1992年からは大阪工業大学工学部都市デザイン工学科で教鞭を執る。河川工学を研究していたことから、淀川のそばにある同大学への着任時に「イタセンパラが存続するように活動することが自分の使命である」と感じ、学生にも呼びかけ、イタセンネットの活動に精力的に取り組んでいる。

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